フェスティンガーは、対人的コミュニケーションには道具的コミュニケーションと自己充足的コミュニケーションがあると指摘しました。
送り手が何らかの目標達成の手段として受け手に送るケースは、道具的コミュニケーションです。
コミュニケーションが目標達成のための道具として利用されているという意味です。
報告、連絡、相談、指示、説得などですね。
コミュニケーションを行うこと自体が目的であるケースは、自己充足的コミュニケーションです。
感情・情緒の表出のためのコミュニケーションであり、伝えてしまえばそれよいという意味です。
日常的に行われているものの多くは道具的なものですが、自己充足的なものは、多くはなくても対人関係の形成や緊張緩和といった調整に重要な役割を果たします。
ところで、昨今企業のメンタルヘルスなどの面から語られるのは、若い人のコミュニケーション下手と、職場でのコミュニケーション量の不足です。
そしてこのとき、どうも道具的コミュニケーションのほうがうまく機能していないのではないか、というのです。
仕事の面で、自分の伝えたいことを他人に伝えることがしっかりできれば、組織における自分の役割も確認でき、動機づけも高まります。
仕事の課題達成にも自信がつき、自尊心が高まり、健康面にもよい影響が出るというわけです。
確かに、自己充足的コミュニケーションにとどまっているうちは、結果を出すことにはつながりませんね。
フェスティンガーの原著を読んだわけではありませんが、おそらく彼が指摘した当時、道具的コミュニケーション優位という状況があったうえで、自己充足コミュニケーションも忘れないようにしましょう、という気持ちだったのではないかと思います。
それが今は逆転していると言えるようです。
「ああしてほしい、こうしてほしい」と欲求を伝えたり、断ったりができないで悩んでしまっている人が多いのでしょう。
もちろん、上記のように、道具的なものばかりではやはりうまくいかないのであって、自己充足的コミュニケーションによって人同士が支え合うことは、やはり大事です。
要は、バランスをとる必要があるということです。
コミュニケーション研修をやる身としては、プログラムの比重をどちらにどうかけるか、一考を要すると思います。