「こないだ、こんなことがあったんですよ」
「それは、きっとAだよ」
「Bという線もあるんじゃないんですか」
会話をキャッチボールに例えることがよくあります。
ボールがテンポよく、パンパンと受け渡されるのは刺激的です。
クリエイティブな会議などの後では、スポーツをしたときのような爽快感に、頭が包まれます。
現代はそんな会話にあこがれ、どんどんそっちに向かっているように思います。
でも、もっとゆったりしたキャッチボールもあっていい。
人間、いつも元気とは限りません。パンパンとやるのはしんどい日もあります。
また、始めは軽いキャッチボールで肩を温めるということもありますよね。
「こないだ、こんなことがあったんですよ」
「ああ、そーう。……それはねえ、Cだよねえ」
そんなテンポを作り出すのは、最初の受け止める言葉です。
「そうですか」「そうなんだァ」「そーう」
相手の言ったことに対して、まずあいづちとしてうつ、こうした言葉。実はとても大事なんです。
受け止めるということは、存在自体を受け入れる姿勢につながるからです。
カウンセリングのトレーニングをしたときのことです。
社会人経験の長い人ほど、話し手の話を「わかりすぎる」という傾向がありました。
自分の経験に照らしてわかったつもりになり、アドバイスしたくなってしまうのです。
カウンセリングでは、それはダメです。
わかったつもりから漏れる微妙に違う部分こそ、問題の根幹であることが多いのですから。
私も例外ではなかったのですが、相手の話の後に、まずは「そうですか」を、深い言い方で返すようにして、どうにか壁を乗り越えました。
「そーうですかァ」という感じです。
これだけで、受け止める会話ができるようになりました。
普通の会話でも、まずは「そうですか」を返すのがコツです。
これでテンポをつくれます。
「間」もとれます。
聞いていますよ、と相手に伝えられます。
相手の話を聞いている間、私たちの頭の中では「わかる」ための作業が行われています。
つまり、「分ける」ために、似た経験をさがしたりしています。
聞き手の側が話し始めて、自分の方に話を取ってしまうことが起こるのは、そのせいでしょう。
まず「そうですか」と言えば、自分のことを話したくなるのに少しブレーキがかけられます。
仮に自分のことを話したとしても、「そうですか」のおかげで、相手もそう悪い気はしないはずです。