私は広い意味での人間の「自律」をテーマにしていますので、育つ過程での親との関係性にも関心があります。
そのあたりは、発達心理学の扱う領域ですが、母子の位置関係で、とても好きな表現があります。
◎「向かい合い」の関係 生後~6ヶ月
母親に当たる相手を見るところから、コミュニケーションが始まります。
赤ちゃんは、30センチくらいの距離のものを、まず見えるようになるのだそうです。
目のように、ふたつ並んで、まばたきするようなものに、関心を示します。
自分の欲求を満たしてくれる人を、心理的につかまえようとします。
この人にかまってもらえるように、関心を引く行動をとります。
かまってもらえないと、そこから相手の意図を読んで(意識的ではないけれど)対応するようになります。
微妙なねじれが始まるわけですね。
交流分析だいう「脚本」形成の芽なのでしょう。
◎「並び合いの関係」 6ヶ月~12ヶ月
赤ちゃんは、親だけでなく、モノを見るようになります。
さらに、自分とモノといった2者関係から、だんだん自分とモノと、そばにいる親といった3者関係を理解するようになっていきます。
並んで、親がモノに何かをするのを、赤ちゃんは「自分がやった」と同じに感じるそうです。
自分と親とが視線を共有する、つまり同じモノを見ている関係から、次第にコミュニケーションが進みます。
モノを見ることで心に浮かぶものを伝えたいという思い、また、ともに感じてくれる存在がそばにいるという感触こそ、大事なものだと思います。
また赤ちゃんが指さすモノを、視線を共有した親は、「〇〇ね」と応答します。
このやりとりが、言葉を獲得する最初です。
◎「重なり合い」の関係 12ヶ月~24ヶ月
自己内対話(頭の中の会話=思考)が始まります。
赤ちゃんはもう動けますから、関心を引くモノに対して、調べようと出て行きます。
このとき、後ろで見ている親の存在を感じることが大事ですね。
振り向いたとき、戻るべき安全基地があることで、行動の半径は広がり、情報を取り込んでいけるのです。
親のほうは、「さあ、大丈夫だから行っておいで」と見守るのです。
先回りして、取ってやってしまってはいけないわけです。
そういえば、娘がヨチヨチ歩きするようになった頃、買い物に行くのに、彼女なりに一生懸命歩くにまかせて、ずっと後をついて行きました。
かなりの距離をしっかり往復しました。
彼女にとっては、大きな冒険だったでしょうし、成長を実感する瞬間だったと思います。
帰宅して、「いっぱい歩いたねえ!」と抱き上げたとき、本当に誇らしげな顔で笑いました。