会社にはいって2,3年の、ほんとうにペーペーの頃、何度か社長のお使いをしたことがあります。
ある日秘書課長に呼ばれ、これを持ってどこどこに届けてきてほしい、社有車が用意してあるから、という具合です。
行先は、日本で指折りの大会社の社長さんのお宅でした。
時には、芸事の家元のお宅、またおさらい会の楽屋などのこともありました。
当時あった役員用の車に乗せてもらえました。
運転手さんが場所をよく知っていて、いちいち教えなくても済み、荷物もあることだし、昼はあいているから、というだけのことですが。
まさか後席には乗れません。
助手席です。
社長さんのお宅、それは戸建だったり、マンションだったりですが、うかがうと、
「ごめんください、~の使いでまいりました」
あらかじめ電話してくれていますから、すぐ玄関が開きます。
式台のあるお宅では、私のような者にでも奥様がちゃんと膝をついて応対してくれます。
教わった向上を述べます。
たとえば、観光土産の手提げ袋を出して、
「先日、~が~に参りまして、ほんのお土産でございます」
「いつもお気づかいくださいまして、ありがとうございます。~さんにどうぞよろしくお伝えください」
「かしこまりました、では失礼いたします。ごめんください」
家を出てしまえば、またペーペーですから、あの大社長はこんなところにお住まいなのか、などとあらためて周りを見まわしました。
あの頃、どこかのテレビCMで、ゴリラが「俺、社長の代理」と言うのがあり、そんなことを思い出したりもしたものです。
使い走りとはいえ、自分がそんなことをさせてもらえて、晴れがましい気持ちになりました。
一方では、社長はこんなことをしているのだ、そうした布石があるから大きな仕事が取れるのだ、とトップ同士の世界、経営の奥を見た気がしました。
今は、何でも入札のドライな世の中ですから、トップ同士こんな付き合いがあるのかは知りません。
しかし、私にとってこの経験は、仕事への向かい方に少なからず影響を与えたと思います。
ルーティンになるほど、仕事からは感動が得られなくなります。
部下に、非日常を味わう機会を与えることは、よい刺激になります。
また仕事の結果が及ぶ相手(直接見えなくても)をイメージすることで、仕事に血が通いますし、やりがいも生れます。特に人事などのスタッフ部門はそうです。
「人事の仕事は、相手が 1/社員数 だと思ってはいけない。相手にとっては1/1なのだ」と、部下にはよく言いました。
◆ここから学んだツボ
・トップは「アヒルの水かき」をしているもの
・特定の「誰か」の役に立つ仕事は楽しい
・トップのお宅にはそれにふさわしい醸し出すものが